読後感想文「遠い太鼓」村上春樹
(投稿タイミングの早さを重視しましたので、内容が薄くなっています。いずれ、書きなおします) 僕は「ハルキスト」ではない。だが、村上春樹の本の8割くらいは読んでいる。その始まりは、大学の合格祝いにもらった図書券だった。その図書券で買ったのは、泉谷しげるの写真集と村上春樹の「1973年のピンボール」だった。当時から泉谷しげるのファンだったが、「村上春樹」という名前は知らず、自分が「ピンボールが得意」と言う理由だけの、ジャケ買いならぬ「タイトル買い」だった。 「1973年のピンボール」にはビールを飲む場面が多く描かれており、その影響で、飲めなかったビールが飲めるようになったことを覚えている。ただ、本当のハルキストの方々には申し訳ないが、それ以外の作品の印象はそれほど強くない。 そんな僕が一冊だけどうしても紹介したい村上作品がある。 「遠い太鼓に誘われて私は長い旅に出た・・・」というトルコの詩の引用から始まる「遠い太鼓」だ。小説ではない。紀行文とか、滞在記というような種類の作品で、ギリシアとイタリアでの氏(と夫人)の生活風景を綴ったものなのだ。もう10回以上読み返している。8回くらい読んだところで、その単行本がボロボロになったため、新しいものに買い替えた。それくらい気に入っている。 どこが気にっているのか。 まず、文体と内容の穏やかさである。小説であれば、その展開のために、何らかの事件や出来事が必要だが、この本にはスリルやサスペンスと言うものは無い。未知の土地での生活なのでいろいろと面倒なことは起きる。それでも、この本を読むと落ち着いた気分になる。私は、日中に読書をするという習慣は無く(仕事関係は別だが)、夜、ベッドに入って「眠くなるまで読む」ことを趣味としている。この本は、日中に起きた僕のまわりの煩わしい出来事をすべて忘れさせてくれて、穏やかに眠りに入ることができる。どうしても自分で昇華(消化)し切れない問題を抱えている時、この本を読むと気分が落ち着き、その問題を忘れることができる。 もうひとつは、村上氏自身が主人公として前面に出ていないことだ。特に現地の人との交流の描写は秀逸である。 ギリシアの賃貸レジデンスの管理人であるヴァンゲリス氏とのやり取り。雑貨屋のアナルギロス氏との会話。いろいろな人々との心の通い合い方は村上氏の人間力によるものかもしれない。 ベス...