読後感想:だからHow-To本を買うのが嫌なんだ
「何者にもなれなかった」というフレーズに惹かれて、その表現を冠したHow-To本を購入した。内容が薄っぺらで期待外れが多いため、また、私自身が簡単に他人に教えられて知識を得ることをよしとしない性格のため、How-To本を滅多に買うことはないのだが、いくつか考えたいポイントがあり、買うことにした。
40歳で役職名を持たない会社員は、どうやって自己肯定感を醸成すればいいかという指南書である。
結論から言うと、「一考に値する」本である。
どのように一考に値するのか。
まず、著者が「会社の中での出世(役職)を是とする基準で書いている」という驚きである。そして、その是とする流れに乗れなかった(乗らなかったとは書いてない)人間をどのように慰めるかという論調になっている。ダイバーシティが叫ばれるこの時代に、である。「自己実現=出世」という著者の価値観が理解できないわけではないが、高度経済成長時代の価値観の匂いを感じてしまう。
ふたつ目の一考は「40歳を基準にしていること」である。「65歳までは、当たり前。70歳まで、それ以上の年齢まで、どう働くかを考えなければいけないこのご時世に」である。40歳という年齢を会社員生活のピークと考える時代ではなくなってきているはずなのに。
三つ目は「40歳で何者にもなれなかった会社員が発生する原因は、その上司世代の怠慢である」と分析している点である。一般的に、大学卒の新入社員とその上司(例えば課長)の年齢差が15歳~20歳とすると、40歳になった会社員の上司は60歳前後となる。つまり、ほとんど、私と同じ世代だ。残念ながら私は高度成長時代を担った人間ではない。後進の育成に注力したと思っている私は例外か?(注力と成功は違うが)
そして、四つ目の一考である。著者は、1965年生まれの女性で、タレント、気象予報士、健康社会学者、長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師の肩書を持つらしい(Wikipediaより)。あくまで想像だが、昨今の、SNSで名を売る論客と呼ばれる人たちと同じ「ウケ狙い」か。
最後の五つ目のポイントは、タイトルにある「僕」の文字である。明らかに、男性を指している。著者は女性である。教育機関で教鞭も取っている。有名企業の出身者でもあるらしい。この著者の頭の中には「出世を望むのは男性。女性はそれすらない」という位置付けなのだろう。
これらの5つのポイントを考えると、「堂々とこんな意見を本にする日本」が見えてくるような気がする。
私は、現在、アルバイト程度のフリーライターである。先日、人材開発コンサルタントへのインタビュー音源をもとに、その要約記事を書いたのだが、そのコンサルタント曰く「最近の若者(Z世代)は管理職になりたがらない。理由は、管理職に要求される責任感の重さと、部下からの突き上げの恐怖」だそうだ。「何者にもなれなかった・・・」の著者とは意を異にしている。なれなかったではなく、なりたがらなかった、という訳だ。
この両者をもとに、考えなければいけないことは「今の若者は、本当に、役職者になりたがっていないのか。それとも、これは、一部の話なのか。それとも、やはり、出世は若者にとって大事な話なのか。それは、男女に差がないのか。企業規模や業種や職種に関係しないのか。すべてを、一律に取り扱っていいのか。何者かになるという価値観を企業内での出世以外に求めることはできないのか」ではないだろうか。
今の政治家もマスコミも、社会現象を単純化してとらえがちである。価値観は多様である。ダイバーシティなどという言葉がはやる前から、価値観は多様である。その多様性を是とせずに、ひとつにまとめたがっているのは、政治家、マスコミだけではなく、SNSに群がる人たち。そして、この本のような、論拠を示さずに感覚だけを述べる人たちなのではないだろうか。
最初に書いた「一考に値する」という意図は、「時代錯誤を是正し、実体をよく見て、よく考えろ」という意味である。だから、How-To本(1250円税別)が嫌いで、滅多に買うことがないのである。
この本の感想は「やっぱり、買うんじゃなかった」と言うことになる。まだまだ、言いたいことはたくさんあるが、教育に携わっている人間であれば、そして、まともな出版社であれば、もう少し、ロジカルで本質的な意見を本のカタチにしてほしいものである。
有閑館ポイント
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